企業で利用するITシステムやセキュリティデバイスは多岐にわたり、それぞれが大量のログ(記録)を吐き出しています。ファイアウォール、サーバー、アプリケーション、IDS/IPS...。これらのログを個別に監視するだけでは、巧妙化するサイバー攻撃の全体像を把握することは非常に困難です。
そこで活躍するのが、「SIEM(Security Information and Event Management)」ソリューションです。本記事では、このSIEMが、企業のセキュリティ運用においてなぜ不可欠なのか、その機能と導入メリットを分かりやすく解説します。
SIEMとは?「情報」と「イベント」を統合管理するシステム
SIEMは、「Security Information and Event Management(セキュリティ情報およびイベント管理)」の略で、組織内のあらゆるセキュリティ機器やIT機器からログを一元的に収集・分析し、リアルタイムで脅威を検知するソリューションです。
かつてはログの収集・保管に特化したSIM(Security Information Management)と、リアルタイムのイベント分析に特化したSEM(Security Event Management)が別々に存在していましたが、この二つを統合したものがSIEMです。
SIEMの3つのコア機能
SIEMは、主に以下の3つのステップで企業のセキュリティを守ります。
1. ログの収集と正規化
SIEMは、ファイアウォール、サーバー、ネットワーク機器、エンドポイントなど、IT環境のあらゆる層から発生するログデータを一元的に収集します。機器ごとに異なるフォーマットのログを、分析しやすいように共通の形式(正規化)に変換し、蓄積・管理します。
2. 相関分析(イベントの関連付け)
これがSIEMの最も重要な機能です。SIEMは、単一のログだけでは異常と判断できないイベントを、異なる機器のログと時間軸やイベント軸で関連付け(相関分析)て分析します。
(例)
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Aサーバーのログイン失敗ログ(単体ではよくあること)
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直後にBサーバーへの大量のデータ転送ログ(単体では業務かも)
この二つのイベントを関連付けることで、「総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)でアカウントを破り、機密データを持ち出そうとしている」といった、攻撃の一連の流れを一つの脅威として検知できるようになります。
3. リアルタイム検知とアラート
相関分析の結果、あらかじめ定義されたルールや、機械学習で検出された異常パターンに該当する場合、SIEMはセキュリティ管理者に即座にアラートを通知します。深刻度に応じて優先順位を付け、対応の迅速化を支援します。
SIEMを導入する3つの大きなメリット
1. 脅威の「早期発見」と「被害最小化」
大量のログを手動で確認することは非現実的ですが、SIEMはこれを自動化し、リアルタイムで監視・分析します。これにより、攻撃が深刻化する前の「予兆」の段階や、既存のセキュリティ製品の「すり抜け」を迅速に発見し、被害を最小限に抑えることができます。
2. 内部不正対策とゼロトラストの実現
外部からの攻撃だけでなく、従業員による不正行為や情報漏洩といった内部脅威の検出にも効果を発揮します。通常と異なる時間帯のデータアクセスや、大量なダウンロードなどの異常行動を複数のログから検出することで、内部のリスクを可視化し、ゼロトラスト(何も信頼しない)の考え方に基づいた監視体制を強化できます。
3. 運用効率の向上とコンプライアンス強化
すべてのログを一元管理できるため、インシデント発生時の原因調査や追跡にかかる手間と時間を大幅に削減できます。また、SIEMで収集・保管されたデータは、GDPRやPCI DSSなどの規制や監査要件への準拠を証明するためのレポート作成にも役立ち、企業のコンプライアンス強化を支援します。
まとめ
現代のサイバー攻撃は、複数のシステムをまたいで段階的に行われます。SIEMは、バラバラだったセキュリティの点と点をつなぎ合わせ、脅威の全体像を浮かび上がらせるセキュリティ運用の中核となるソリューションです。
システムが複雑化するほど重要性が増すSIEMを導入することで、限られたリソースの中で、より強固で効率的なセキュリティ体制を構築できるでしょう。
貴社のセキュリティ運用において、ログの可視化と脅威の相関分析は十分に実現できていますか?