デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む現代において、企業のセキュリティ対策はますます複雑化しています。特に、「内部からの脅威」や「正規アカウントを悪用した攻撃」は、従来のセキュリティ対策では見逃されがちです。
そんな見えない脅威に対抗する鍵となるのが、「UEBA(User and Entity Behavior Analytics)」、日本語で「ユーザーおよびエンティティの行動分析」ソリューションです。本記事では、このUEBAがどのような仕組みで企業のセキュリティを守るのか、その機能とメリットを分かりやすく解説します。
UEBAとは?行動から異常を見抜く仕組み
UEBAは、企業ネットワーク内の「ユーザー(従業員、外部委託者など)」と「エンティティ(サーバー、デバイス、アプリケーションなど)」の行動を継続的に監視・分析するセキュリティソリューションです。
最大の特長は、あらかじめ設定されたルールだけでなく、AI(人工知能)と機械学習を活用して「普段のふるまい(ベースライン)」を学習することにあります。
1. ベースラインの定義(正常なふるまいの学習)
UEBAソリューションは、膨大なログデータやアクティビティ情報を取り込み、ユーザーAはいつもこの時間帯に、このサーバーにアクセスし、これくらいのデータをダウンロードするといった、個々のユーザーやエンティティの「正常な行動パターン」を自動で学習し、ベースライン(基準)を作成します。
2. 異常検知とリスクスコアリング
そして、そのベースラインから逸脱した行動をリアルタイムで検知します。
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深夜や休日の不自然なアクセス
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通常はアクセスしない機密データへのアクセス
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普段の数倍のデータ量ダウンロード
このような異常な行動を検知した場合、UEBAはそれを単なるイベントとして扱うのではなく、リスクの深刻度に応じてスコアを割り当てます(リスクスコアリング)。スコアが高いほど危険度が高く、対応の優先順位が明確になります。
3. アラートと自動的な対応
高リスクの異常を検知した際は、セキュリティ担当者にアラートを発します。さらに、他のセキュリティツール(ファイアウォールやアクセス制御システムなど)と連携することで、該当ユーザーの操作をブロックしたり、アクセスを制限したりといった自動的な対応をとることも可能です。
UEBAがもたらす3つの大きなメリット
UEBAは、従来のセキュリティツールが苦手としていた領域で、特に大きな価値を発揮します。
1. 内部脅威の早期発見と対策
悪意を持つ従業員による情報漏洩や、操作ミスによるセキュリティホールなど、組織内部からの脅威(インサイダー脅威)は、アクセス権を持つ正規ユーザーの行動であるため、従来の防御システムでは見逃されがちでした。
UEBAは「普段と違う」行動を捉えるため、正規の権限を悪用した不正行為や、アカウントが乗っ取られた際の攻撃者の動きを迅速に特定し、被害が拡大する前に食い止められます。
2. アカウント侵害の検知
攻撃者がフィッシングやマルウェアで正規ユーザーのID・パスワードを盗み出す(アカウント侵害)ケースが増えています。盗まれた認証情報を使ったアクセスは「正規のログイン」に見えますが、その後の行動(例えば、普段使わないツールで大量のデータにアクセスするなど)は「通常」とは異なります。
UEBAは、この「行動の異常」を検知することで、アカウント侵害を迅速に発見し、攻撃者がネットワーク内で横移動(ラテラルムーブメント)して機密情報に到達するのを阻止します。
3. セキュリティ運用効率の向上
UEBAは、AIと機械学習によって大量のデータ分析を自動化し、真に危険性の高いイベントに優先順位をつけます。これにより、セキュリティ担当者は大量のアラートに埋もれる「アラート疲れ」から解放され、より重要な脅威の調査と対応に集中できるようになり、運用負荷とコストを大幅に削減できます。
まとめ
UEBAは、単にルール違反を検出するだけでなく、「正常とは何か」を深く理解することで、巧妙化するサイバー攻撃や内部脅威に対抗するための強力な武器となります。
企業のデジタル資産を守る上で、「誰が、いつ、何をしたか」という行動ベースの分析は不可欠です。ぜひこの機会に、UEBAソリューションの導入を検討し、一歩先のセキュリティ対策を実現してください。