情報資産を守る砦!「セキュリティ要求事項」を徹底解説

デジタル化が進む現代において、企業が保有する情報は最大の資産の一つです。顧客情報、技術ノウハウ、財務データなど、これら重要な情報資産をサイバー攻撃や内部不正から守るために不可欠なのが、システム開発や運用における「セキュリティ要求事項」です。

これは単なるチェックリストではなく、情報セキュリティを確保し、ビジネスの信頼性を維持するための設計図であり、ルールブックと言えます。今回は、このセキュリティ要求事項について、その役割や具体的な内容を解説します。


 

セキュリティ要求事項とは?

 

セキュリティ要求事項とは、開発するシステムや運用する組織に対して、「どのようなセキュリティ対策が必要か」「何をしなければならないか」を具体的に定義した要件のことです。

通常、システム開発における要件定義の一部として取りまとめられます。これらの要求事項は、情報セキュリティの「三要素」である機密性完全性可用性を維持するために設定されます。

  • 機密性(Confidentiality):許可された者だけが情報にアクセスできること。

  • 完全性(Integrity):情報が正確で、改ざんや破壊がない状態に保たれていること。

  • 可用性(Availability):システムや情報が必要なときにいつでも利用できること。

 

なぜセキュリティ要求事項が必要なのか?

 

セキュリティ要求事項を明確に定めることには、主に以下の重要な目的があります。

 

1. リスクの低減と対策の明確化

 

自社の情報資産に対する潜在的セキュリティリスク(脅威と脆弱性を事前に洗い出し、それに対抗するための具体的な対策(要件)を定めることで、情報漏洩やシステム停止といったインシデントの発生確率を大幅に低減できます。

 

2. 法令・規制の遵守

 

個人情報保護法や業界特有のガイドラインなど、企業が守るべき法令や規制を遵守するために必要な対策を、要求事項としてシステムに組み込むことができます。

 

3. 開発者との認識合わせ

 

システム開発を外部に委託する場合、開発者に対して「どのレベルのセキュリティを求めるか」を明確に伝えることで、手戻りを防ぎ、求められる品質のセキュリティが実装されたシステムを確実に納品させるための基盤となります。

 

セキュリティ要求事項の主な構成要素

 

セキュリティ要求事項は、システムや組織の特性に応じて多岐にわたりますが、代表的な項目は以下の通りです。

項目 概要 具体的な例
認証・認可 ユーザーがシステムにアクセスする際の本人確認や権限の管理に関する要件。 多要素認証(MFA)の必須化、パスワードの複雑性要件、最小権限の原則。
アクセス制御 ユーザーやシステムが情報・リソースにアクセスできる範囲を制限する要件。 役割ベースのアクセス制御(RBAC)の適用、業務時間外の特定機能へのアクセス制限。
ネットワークセキュリティ 外部からの不正侵入や通信傍受を防ぐためのネットワーク上の対策要件。 ファイアウォール/IPSの設置、通信の暗号化(SSL/TLS)、VPNの利用。
入力データの検証 システムへの不正なデータ入力を防ぎ、システムの脆弱性を突く攻撃を防御する要件。 SQLインジェクション対策、クロスサイトスクリプティングXSS)対策。
ログ・監視 システムの利用状況やセキュリティイベントを記録し、不正アクセス等を検知する要件。 操作ログの取得と一定期間の保存、不正アクセス検知システム(IDS)の導入。
物理的セキュリティ サーバーや機器が設置されている場所への物理的なアクセスを制限する要件。 サーバー室への入退室管理、監視カメラの設置。

国際規格「ISO/IEC 27001」との関係

 

セキュリティ要求事項を体系的に管理・実施するための国際規格として、ISO/IEC 27001(ISMS情報セキュリティマネジメントシステムがあります。

この規格は、情報セキュリティを組織全体で管理するための仕組み(マネジメントシステム)に関する要求事項を定めています。ISO 27001の要求事項を満たすことは、情報セキュリティに対する取り組みの網羅性継続的な改善を保証する強力な基準となります。

 

まとめ

 

セキュリティ要求事項は、情報資産を保護し、企業が信頼性を持ってビジネスを継続するための基盤です。システム開発や業務運用を行う際は、潜在的なリスクを徹底的に洗い出し、適切な要求事項を定義することが、情報セキュリティ確保の第一歩となります。

セキュリティ対策は「一度やったら終わり」ではありません。技術の進化とともに脅威も変化するため、要求事項も定期的に見直し、継続的に改善していく姿勢が重要です。