誤解を解消!RAIDがルーターのUSBポートで動かない技術的な理由

RAIDコントローラーがディスクをまとめて、PCには『普通のUSBドライブ』として見せればいいだけじゃないの?」

この疑問、非常に真っ当です!PCにRAIDケースを繋ぐと、確かにPCはそれをひとつのドライブとして認識しますよね。なのに、なぜAtermルーターのような機器だとダメなのか。それは、バイスとホスト(PCやルーター)間の「会話」の深さと、期待される「言葉の範囲」が根本的に違うからです。

レイヤーが違うという表現も、まさにその通りです。一つずつ紐解いていきましょう。


レイヤー1:物理的な接続と電力供給

これは一番下の層で、ほぼ問題になりません。USBケーブルを挿し、電力が供給されるかどうか。RAIDケースはUSBケーブルで電力を供給されるか、専用のACアダプターを使います。ルーターのUSBポートも、最低限の電力供給はできます。

レイヤー2:USBデバイスの「自己紹介」とホストの「理解力」(ここが最初の大きな壁!)

これが、RAIDルーターで動かない最初の、そして最大の壁です。

  1. USBデバイスの「自己紹介」: USBデバイスがホスト(PCやルーター)に接続されると、まず「私はこういうデバイスです」という自己紹介(ディスクリプタと呼ばれる情報)を送ります。ここには「私はUSB Mass Storage Class(MSC)のデバイスです」「私はMSCの中でもこのサブクラスです」といった情報が含まれます。

    • 一般的なUSBメモリや外付けHDDの場合: 非常にシンプルなMSCディスクリプタを提示します。「私はシンプルな外付けディスクで、標準的なMSCのコマンドで読み書きできます」と伝えます。ルーターはこの単純な自己紹介を理解し、「よし、標準的なディスクだな!」と認識できます。
    • RAIDケースの場合: RAIDケースの内部にはRAIDコントローラーがあります。このコントローラーが、複数の物理ディスクを抽象化し、PCに対しては「1つの論理的なドライブ」として見せかける役割を果たします。しかし、この「見せかけ方」が問題なのです。 RAIDコントローラーは、より複雑なディスクリプタを提示したり、MSCの標準的な範囲を超えた拡張されたプロトコルでホストと通信を試みたりすることがほとんどです。これは、RAIDの管理情報(どのディスクがRAIDを構成しているか、エラー状態はどうかなど)をPCに伝えたり、より高性能なデータ転送を実現したりするために必要だからです。
  2. ホスト(ルーター)の「理解力」:

    • PCの場合: PCのOS(Windows, macOS, Linuxなど)は非常に賢く、汎用的なUSBドライバー群を持っています。RAIDコントローラーからの複雑な自己紹介や拡張プロトコルを受け取ると、OSはそれに合わせて適切なドライバーを探し、ロードします。これにより、PCはRAIDケースが提供する「1つの論理ディスク」を完全に理解し、その上でファイルシステムを読み書きできます。
    • ルーターAterm WG2600HP2)の場合: ルーターは、PCのような汎用OSを搭載していません。内部のファームウェアは、必要最小限のシンプルなUSBドライバーしか持っていません。具体的には、「ごく一般的なUSBメモリやHDDが使う、最も基本的なMSCプロトコル」しか理解できないように作られています。 RAIDケースが送ってくる「私はRAIDです」という情報や、標準MSCを超えた拡張プロトコルは、ルーターにとっては「意味不明な情報」となります。例えるなら、ルーターが「こんにちは」と「ありがとう」しか知らないのに、RAIDケースが「オブジェクト指向プログラミングの概念とポリモーフィズムについて説明します」と語りかけているようなものです。ルーターはそれを理解できず、結果として「認識できない」状態に陥ります。たとえ電力供給ができても、データ通信の「会話」が成立しないのです。

レイヤー3:ファイルシステムの互換性(ここが次の大きな壁!)

仮に奇跡的にルーターRAIDケースを「何かUSBデバイスが繋がっている」と認識できたとしても、次にファイルシステムの壁が立ちはだかります。

まとめ:「見え方」と「理解力」の決定的な差

RAIDコントローラーは外部には「一つのディスク」として見せようとします。しかし、その「見せ方」が、ルーターの限られたUSB認識能力やファイルシステム対応範囲を超えているため、PCのように柔軟には対応できないのです。

  • PC: 「複雑な自己紹介?OK!それ用のドライバーを探して対応するよ!」
  • ルーター: 「え?なんか難しい話してる…ごめん、シンプルな『USBメモリ』の自己紹介しか分からないや。」

これが、RAIDケースをルーターに接続しても、残念ながら機能しない根本的な理由です。ルーターのUSBポートは、あくまで「ごく一般的なUSBメモリや外付けHDDを、最も単純な方法で共有する」ための機能であり、それ以上の高度な認識・管理能力は持ち合わせていないのです。