Arm CPUの歴史:省電力プロセッサの進化と未来

はじめに

Arm(アーム)は、スマートフォンタブレット、組み込み機器、最近ではPCやサーバーにも採用されるCPUアーキテクチャです。1980年代に誕生し、低消費電力と高効率な設計により、今では世界中のデバイスで使われています。

本記事では、Arm CPUの歴史を振り返りながら、その進化と影響について詳しく解説します。


1. Armの誕生(1980年代)

1.1 Acorn ComputersとArmの起源

Armの歴史は、1983年にイギリスのAcorn Computers社で始まりました。Acornは、BBC Microという教育用コンピュータを開発していましたが、より高性能で低消費電力なCPUが必要だったため、自社でプロセッサを設計することにしました。

その結果、1985年にAcorn RISC Machine(ARM)という名前の最初のプロセッサが誕生しました。

▶ ARM1(1985年)

このARM1プロセッサは商業的な成功には至りませんでしたが、その後の進化の土台となりました。


2. Armプロセッサの商業化(1990年代)

2.1 Arm Ltd.の設立(1990年)

1990年、Acorn ComputersはApple(当時のNewton PDA開発)やVLSI Technologyと協力し、Arm Ltd.(現在のArm Holdings)を設立しました。これにより、Armアーキテクチャを他社にもライセンス供与するビジネスモデルが確立されました。

▶ ARM6(1991年)

  • 初めて大手企業にライセンスされたArmプロセッサ
  • AppleのNewton PDA(1993年)に搭載

▶ ARM7(1994年)

1990年代後半には、組み込みシステムや携帯電話市場でArmが主流になり始めました。


3. スマートフォン時代の到来(2000年代)

3.1 ARM9・ARM11と携帯電話の普及

▶ ARM9(1998年)・ARM11(2003年)

特にARM11は、2007年の初代iPhoneに搭載されたことで大きな注目を集めました。


3.2 Arm Cortexシリーズの登場(2005年〜)

2005年、ArmはCortexシリーズを発表しました。これは、異なる用途向けに設計された3つのプロセッサファミリーです。

シリーズ 特徴 用途
Cortex-A 高性能 スマートフォンタブレット、PC
Cortex-R リアルタイム処理 自動車、産業機器
Cortex-M 超低消費電力 マイコン、IoTデバイス

このCortexシリーズにより、Armはスマートフォン市場での支配的な地位を確立しました。


4. スマホ市場の支配とPC・サーバー進出(2010年代〜)

4.1 iPhoneAndroidの爆発的な普及

2010年代には、Apple Aシリーズ(iPhoneiPad)、Qualcomm Snapdragon、Samsung Exynos、MediaTek Dimensityなど、各社がArmアーキテクチャを採用したスマートフォン向けチップを開発しました。

特に、2013年には64ビット対応のCortex-A57/A53が登場し、iPhone 5sに搭載されたApple A7が業界をリードしました。


4.2 サーバー・PC市場への進出

2010年代後半からは、ArmアーキテクチャがサーバーやPC市場に進出しました。

AWS Graviton(2018年)

Apple M1(2020年)

  • AppleMac向けに開発したArmベースのSoC
  • Intel Macよりも高効率・高性能を実現

この流れにより、ArmベースのPCが本格的に普及し始めました


5. 現在と未来(2020年代〜)

5.1 Windows on ArmとPC市場の競争

2023年には、Qualcommが高性能PC向けのSnapdragon X Eliteを発表し、Windows on Armの可能性が広がりました。

これにより、今後はIntelAMDx86アーキテクチャとArmの競争が激化すると予想されます。


5.2 AI・自動車・データセンター向けArmの進化

NVIDIAがArmベースのAIチップを開発
Teslaや自動車メーカーがArmを採用
データセンターでのArmサーバー増加

今後は、AI・クラウド・自動車向けにArmの需要が拡大するでしょう。


6. まとめ:Armの進化と今後の展望

📌 1985年:AcornがARM1を開発
📌 1990年:Arm Ltd.設立、Apple Newtonに採用
📌 2000年代:携帯電話市場で急成長
📌 2010年代スマホ市場を支配、サーバー・PCへ進出
📌 2020年代Apple Mシリーズ、Windows on Arm、AI・自動車分野へ拡大

今後、ArmはPC市場でのx86対抗・AIチップ・自動車向けプロセッサとしての成長が期待されます。