前回の記事で、SSL-VPNが抱える「構造的なセキュリティ課題」について警鐘を鳴らしました。特にリモートワークの普及に伴い、VPNの脆弱性がランサムウェア攻撃の主要な侵入経路となるケースが増えています。
では、旧来からあるもう一つのVPN方式であるIPSec-VPNに切り替える、または併用することで、状況はどのように変わるのでしょうか?
本記事では、SSL-VPNとの決定的な違いに焦点を当て、IPSec-VPNのメリットと注意点を解説します。
1. 最も大きな違い:「通信を暗号化する階層」が変わる
SSL-VPNとIPSec-VPNの最も根本的な違いは、インターネット通信のどの段階(レイヤー)で暗号化処理を行うかです。
🔒 より下層でパケット全体を保護するIPSec
IPSec-VPNは、TCP/IP通信の根幹であるネットワーク層(L3)で動作します。
これにより、IPパケットのヘッダ情報(宛先や送信元IPアドレスなど)を含めたパケット全体を暗号化できます。これは、より上位のセッション層(L5)で動作し、主にWebブラウザなど特定のアプリケーションの通信を保護するSSL-VPNとの決定的な違いです。
【変わること】
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セキュリティレベルの向上: パケット全体を保護するため、セキュリティレベルは一般的にIPSecの方が高くなります。特に拠点間接続(本社と支社など)においては、その堅牢性からIPSecが標準的に利用されてきました。
2. ユーザーの「使い勝手」と「接続範囲」が変わる
IPSec-VPNは、SSL-VPNのようにWebブラウザ経由で手軽に接続するというより、ネットワーク接続そのものに特化した仕組みです。
💻 専用クライアントが必須になる
SSL-VPNはWebブラウザがあれば専用ソフトなしで接続できる「クライアントレス」な手軽さが特徴でした。しかし、IPSec-VPNは端末側で専用のクライアントソフトウェアのインストールと設定が必須となります。
【変わること】
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導入の手間が増える: ユーザー側でクライアントソフトのインストールや複雑な設定が必要になるため、導入の難易度はSSL-VPNよりも上がります。しかし、一度設定してしまえば、OSのネットワーク機能として安定して動作します。
🌐 アクセスできるリソースが広がる
SSL-VPNは、通常、Webアプリケーションなど特定のアプリケーションに絞ってアクセスを許可するように設計されています。対して、IPSec-VPNはネットワーク層でトンネルを構築するため、接続が確立されると、あたかも社内LANにPCを持ち込んだかのように企業ネットワーク内の大半のリソースにアクセスできるようになります。
【変わること】
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利用可能なアプリケーションが増える: Webブラウザに依存しないため、独自開発のクライアント・サーバーシステムや、Web対応していないファイルサーバーなど、あらゆるネットワークリソースにアクセスできるようになります。
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アクセス制御の課題: 接続後のアクセス範囲が広くなるため、SSL-VPN以上に詳細なファイアウォール設定や**ネットワーク分離(セグメンテーション)**が重要になります。「接続=すべてOK」とならないよう、より厳格なセキュリティ設計が求められます。
3. 通信速度(パフォーマンス)が変わる
一般的に、IPSec-VPNはSSL-VPNよりも高速で安定した通信が可能です。
SSL-VPNは、TCPの上の階層で暗号化を行うため、通信にオーバーヘッドがかかりやすく、大人数が同時接続したり大容量データを転送したりする際にパフォーマンスが低下しやすい傾向があります。
【変わること】
⚠️ IPSec-VPN導入時の最大の注意点
IPSec-VPNに切り替えても、前回の記事で触れた「VPNゲートウェイが狙われる構造的な課題」は解消されません。
VPN機器(IPSecゲートウェイ)がインターネットに公開され、その脆弱性を突かれた場合、SSL-VPNと同様に一気に社内ネットワークへ侵入を許すリスクがあります。
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クライアント認証の強化: ID/パスワード認証だけでなく、電子証明書を用いたクライアント認証を必ず導入し、厳格な端末認証を行います。
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二要素認証(MFA)の義務化: 不正に盗まれたID/パスワードによる不正アクセスを防ぐため、二要素認証は必須です。
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パッチの即時適用: VPN機器の脆弱性情報が公開された場合、業務影響を恐れず最優先でセキュリティパッチを適用する運用体制を確立してください。
IPSec-VPNは堅牢ですが、現代のセキュリティ環境では、VPNの代わりに「ZTNA (Zero Trust Network Access)」のような、ユーザー単位・アプリ単位でアクセスを細かく制御する新しい仕組みへの移行も選択肢として検討されています。
IPSec-VPNは依然として有効な手段ですが、その特性を理解し、より厳格な運用とアクセス制御を組み合わせることで、初めて安全性を確保できます。