注意!Raspberry PiでNAS構築、USB接続ストレージのRAIDには「落とし穴」がある?

ストレージの信頼性を高める方法として「RAID」の概念にも触れましたが、Raspberry PiでUSB接続のストレージを使ってRAIDを組む際には、いくつか重要な注意点があります。

特に「性能面での制約があるため注意が必要です」という部分、気になりませんでしたか?今回は、その「落とし穴」について、もう少し掘り下げて解説していきたいと思います。

RAIDとは何か、なぜNASで使うのか?おさらい

まず、RAIDについて簡単におさらいしましょう。RAID(Redundant Array of Independent Disks)とは、複数のストレージ(HDDやSSD)を組み合わせて、あたかも一つの大きなストレージのように扱う技術です。主な目的は以下の2つです。

  1. データ保護(冗長性): RAID 1ミラーリング)のように、同じデータを複数のドライブに書き込むことで、どれか一つのドライブが故障してもデータが失われないようにします。
  2. 性能向上: RAID 0(ストライピング)のように、データを複数のドライブに分散して書き込むことで、読み書き速度を向上させます。

NASでは、重要なデータを安全に保存するために、RAID 1RAID 5(複雑な技術でデータ保護と性能向上を両立)といった構成がよく利用されます。

Raspberry PiとUSB接続ストレージ、そしてRAIDの「限界」

さて、本題のRaspberry PiでのRAIDの限界についてです。これは主に、Raspberry Piのハードウェア的な特性に起因します。

  1. USB接続の制約 Raspberry Pi 4以降のモデルではUSB 3.0ポートが搭載され、以前のモデルに比べて格段に高速になりました。これにより、外付けHDDやSSDを接続しても十分な速度が得られるようになったのは大きな進歩です。

    しかし、複数のUSBストレージを同時に接続し、それらを使ってRAIDを構成する場合、問題となるのが「USBバスの共有」です。

    • シングルバスアーキテクチャ: 多くのRaspberry Piモデル(特にPi 4より前)では、全てのUSBポートが内部的に単一のUSBコントローラー(バス)を共有しています。これは、複数のストレージから同時にデータを読み書きしようとしても、結局は一本の道(バス)を複数台の車(データ)が通ろうとするようなものです。
    • 帯域幅の限界: たとえUSB 3.0ポートがあったとしても、そのバス全体の帯域幅には限りがあります。複数のドライブで同時にデータ転送が行われると、個々のドライブが持つ本来の性能をフルに引き出すことが難しくなり、ボトルネック(性能の頭打ち)が発生します。特にRAID 0(ストライピング)のように並列書き込みで性能向上を狙う構成では、この影響が顕著に出ます。RAID 1ミラーリング)でも、同時に2つのドライブに書き込む必要があるため、影響は避けられません。
  2. CPUリソースの消費(ソフトウェアRAIDの場合) OpenMediaVaultでRAIDを組む場合、これはソフトウェアRAIDになります。ソフトウェアRAIDは、RAIDの計算処理(データの分割、パリティ計算など)をCPUが行います。

    • Raspberry PiのCPUは、通常のNAS作業(ファイル転送など)であれば十分な性能を持っていますが、RAIDの計算処理はCPUにそれなりの負荷をかけます。特にRAID 5などの複雑な計算が必要な場合や、データの読み書きが頻繁に行われる状況では、CPUの使用率が高くなり、NAS全体の応答速度が低下する可能性があります。
  3. USBハブの選び方 複数のUSBストレージを接続するには、USBハブが必須です。この際、セルフパワー(外部電源供給型)のUSBハブを選ぶことが極めて重要です。バスパワー(Raspberry Piから給電される)のハブだと、電力不足でストレージが不安定になったり、最悪の場合データが破損したりするリスクがあります。しかし、セルフパワーハブを使ったとしても、上記のUSBバスの帯域幅の限界は解消されません。

具体的にどんな影響があるの?

  • 期待通りの速度が出ない: RAID 0で理論上2倍の速度が出るはずが、実際には1.5倍程度、あるいはそれ以下になってしまうことがあります。RAID 1でも、シングルドライブ時と比べて読み込み速度は向上しても、書き込み速度は同等かそれ以下になる場合があります。
  • ファイル転送が不安定になる: 大容量ファイルの転送中にエラーが発生したり、途中で停止したりする可能性もゼロではありません。
  • システム全体のパフォーマンス低下: RAIDの処理がCPUリソースを消費することで、ウェブUIの応答が遅くなったり、他のサービス(Dockerコンテナなど)の動作に影響が出たりすることがあります。

では、Raspberry PiRAIDを組むべきではない?

一概にそうとは言い切れません。

  • データ保護が目的であれば有効: 速度よりもデータの安全性(冗長性)を重視するRAID 1ミラーリング)であれば、USBバスのボトルネックの影響は受けつつも、ドライブ故障時のデータ損失を防ぐという目的は十分に果たせます。
  • 速度を追求するならRAID 0は避ける: RAID 0はリスクが高い(ドライブ一つ故障で全データ損失)上に、Raspberry Piの特性上、期待通りの速度向上も望みにくいです。
  • ライトユースなら問題なし: 大容量ファイルを頻繁に転送するわけではなく、バックアップや個人利用で少量のファイルを扱う程度であれば、そこまで大きな問題にならないこともあります。

結論:Raspberry PiNASRAIDを組むなら、ここを理解しよう

Raspberry PiでOpenMediaVaultとソフトウェアRAIDを組み合わせることは可能ですし、データ保護の観点からは有効な手段です。しかし、一般的な市販のNASや、専用のRAIDコントローラーを備えたサーバーと比較すると、性能面で明確な制約があることを理解しておく必要があります。

特に、高速なデータ転送や、複数のユーザーによる頻繁な同時アクセスを想定している場合は、Raspberry PiでのRAIDはオーバースペックかもしれません。そのような場合は、単一の信頼性の高い大容量HDD/SSDを使用するか、より高性能なNASを検討する方が賢明です。

あなたのNASに何を求めるかによって、RAIDの必要性や構成を慎重に検討してみてくださいね。