CAN(Controller Area Network)は、自動車のエレクトロニクス制御ユニット(ECU)間を結ぶ非常に信頼性の高い通信プロトコルとして、長年にわたりその地位を確立してきました。
しかし、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術の進化により、車両が扱うデータ量は爆発的に増加しています。そこで登場したのが、CAN FD (CAN with Flexible Data-Rate) です。
この記事では、CANとCAN FDが具体的にどのように異なり、なぜCAN FDが必要とされているのかを分かりやすく解説します。
1. 🚀 CAN FDが「速い」「大容量」な理由
CAN FDの最大の特長は、従来のCANに比べて高速化と大容量化を実現している点です。
(1) 通信速度の柔軟な変更 (Flexible Data-Rate)
CAN通信では、通信の調停を行う「アービトレーションフェーズ」と、データを送る「データフェーズ」全体で同一の通信速度(最大1Mbps程度)を使用します。
一方、CAN FDでは、以下の図のように速度を柔軟に変更できます。
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アービトレーションフェーズ: 従来のCANと同じ速度(1Mbps以下)を使用し、ノード間の互換性と信頼性を維持します。
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データフェーズ: より高速なビットレート(最大で5Mbpsなど)を使用してデータを一気に転送します。
この「データフェーズでの高速化」が、CAN FDの名称にもある "Flexible Data-Rate" の由来であり、通信の効率を大幅に向上させています。
(2) データ長の拡張
CAN FDは、一度に送れるデータ量(ペイロード)も大幅に増加しました。
| 規格 | 最大データ長 (Data Field) |
| CAN (Classic CAN) | 最大 8 バイト |
| CAN FD | 最大 64 バイト (0〜8、12、16、20、24、32、48、64バイト) |
従来のCANでは、8バイトのデータしか一度に送れなかったため、大きなデータを送るにはメッセージを分割する必要がありました。CAN FDは最大64バイトまで対応したことで、センサー情報や診断データなど、大量のデータを効率的に送受信できるようになりました。
2. 📝 CANとCAN FDの主な違いの比較
主要な違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | Classic CAN (CAN 2.0) | CAN FD (Flexible Data-Rate) |
| 通信速度 | 全フェーズで固定 (最大約1Mbps) | データフェーズで高速化が可能 (最大5Mbpsなど) |
| 最大データ長 | 8バイト | 64バイト |
| プロトコル | ISO 11898-1で規定 | ISO 11898-1:2015で拡張規定 |
| 互換性 | CAN FDノードはCANフレームを受信・送信可能 | CANノードはCAN FDフレームを受信できない |
| CRC | 15ビット | 17/21ビット (データ長に応じて) |
💡 互換性に関する注意点
CAN FDはCANを拡張した規格ですが、CANノードとCAN FDノードを同じバスに混在させる場合、CANノードはCAN FDフレームを理解できないため、基本的にはCANノードがCAN FDフレームを受信しないようにシステムを設計する必要があります。
3. 🌐 なぜCAN FDが必要なのか?
今日の自動車では、カメラ、レーダー、LiDARなどの高精度センサーが大量のデータを生成しています。
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自動運転/ADAS: リアルタイムで膨大なセンサーデータをECU間でやり取りする必要がある。
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ソフトウェアアップデート: 大容量のプログラムを車両全体に迅速に配信する必要がある。
従来のCANの通信速度とデータ容量では、これらの増え続ける要求に対応しきれなくなってきました。
CAN FDは、CANの持つ「高い信頼性」や「効率的な調停(アービトレーション)」といった長所はそのままに、スループット(単位時間あたりのデータ処理量)を大幅に向上させることで、次世代の車載ネットワークの主役となりつつあります。
💡 まとめ
CAN FDは、CANの基本的なフレームワークを継承しつつ、「データフェーズの高速化」と「最大データ長の拡張」という二つの強力な武器を手に入れた進化版です。
この技術革新により、自動車はさらに安全に、より高度な機能を実現できるようになりました。今後、新しい車種開発や産業機械の分野でも、CAN FDの採用はますます進んでいくでしょう。