車載ネットワークで使用される通信規格として、LIN (Local Interconnect Network) と CAN (Controller Area Network) は広く知られています。それぞれが持つ通信方式――LINの1線式とCANの2線式――には、技術的・設計的な理由があります。本記事では、その違いと背景について解説します。
LIN (1線式) の特徴と理由
1. コストの削減
LINは、低コストが求められる用途向けに設計されています。
例えば、パワーウィンドウやシート調整モーターなど、重要度の低い制御システムでは、高い信頼性や高速な通信が必要ありません。
1本の通信線(とグランド)で通信を行う設計により、次のようなコスト削減効果があります:
- 配線コストの低減
- コネクタや配線の軽量化
- 電子部品の簡素化
2. シンプルなトポロジー
LINはマスター-スレーブ方式を採用しており、すべての通信をマスターが制御します。この方式では衝突回避や複雑なエラーハンドリングが不要となり、1本の信号線で十分な通信が実現可能です。
3. 適切な通信速度
LINの通信速度は最大で約20 kbpsと低速です。この速度では1本の信号線でもデータが安定して伝送でき、外部ノイズの影響を受けにくい環境が構築できます。
CAN (2線式) の特徴と理由
1. 高信頼性が必要
CANは、車載ネットワークの中でもエンジン制御や安全システム(ABS、エアバッグなど)のような、信頼性が非常に重要なシステムに利用されます。そのため、以下のような特性が必要です:
- エラーハンドリング: データの整合性を保証する仕組みが強化されています。
- フォールトトレランス: 1本の通信線に障害が発生しても通信が可能。
CANは2本の通信線(CAN_HとCAN_L)を使用して差動信号方式を採用しており、これが高信頼性を実現します。
2. 差動信号方式の採用
CANの2線式設計は、差動信号方式に基づいています。この方式には以下のメリットがあります:
- ノイズ耐性: 環境ノイズが両方の通信線に同時に影響を与えた場合、その差分に基づいて信号を復元できます。
- 信号品質の向上: 長距離配線でも信号の劣化を最小限に抑えることが可能です。
3. 高速通信
CANは最大で1 Mbps(CAN FDではさらに高速)での通信が可能です。このため、1線式では信号の整合性やノイズ耐性が不足し、2線式の差動信号方式が適しています。
LINとCANの使い分け
両者は異なる目的で設計されています。以下に主な使い分けの例を示します。
| 項目 | LIN | CAN |
|---|---|---|
| 通信方式 | 1線式 (グランド共通) | 2線式 (差動信号方式) |
| 速度 | 最大20 kbps | 最大1 Mbps(CAN FDではさらに高速) |
| コスト | 低コスト | 高コスト |
| 用途 | 補助的な制御(シート、ライト) | 安全関連やリアルタイム制御 |
| 信頼性 | 中程度 | 高信頼性 |
結論
LINが1線式を採用する理由は「コスト削減」と「シンプルな設計」にあります。一方、CANが2線式を採用するのは「信頼性」と「ノイズ耐性」を重視した結果です。車両の設計において、これらの通信規格を適材適所で使い分けることで、コストと性能のバランスを最適化しています。
車載ネットワークの進化に伴い、新しい通信規格(例えばCAN FDやEthernet)が登場していますが、LINとCANの役割は今後も続いていくでしょう。