先日、ホンダが発表した「2025ビジネスアップデート」の内容が、自動車業界に大きな波紋を広げています。以前からお伝えしてきたように、EV開発の中止や生産延期が相次ぐ中、ホンダもまた、EV関連の投資額を2024年5月に掲げた10兆円から7兆円へと3兆円も削減すると発表しました。
同時に、注目すべきはハイブリッド車(HV)への戦略シフトを鮮明にしたことです。2027年からの4年間でグローバル市場に13モデルのHVを投入し、2030年のHV販売目標を2025年度比で2.2倍の220万台に設定しました。
これは、ホンダがEVの「理想」だけを追い求めるのではなく、市場の「現実」に即した、より堅実な経営戦略へと舵を切ったことを示唆しています。一体、この戦略の狙いはどこにあるのでしょうか?深く掘り下げていきましょう。
EV投資削減とHV強化:ホンダの「現実主義」戦略
ホンダがEV投資を削減し、HVに注力する背景には、複数の要因が複合的に絡み合っています。
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EV市場の「踊り場」と収益性の課題: これまでにも解説してきた通り、世界のEV市場は急速な成長を見せてきたものの、充電インフラの不足、高い車両価格、そして消費者の航続距離への不安などから、一部で需要の伸びが鈍化する「踊り場」に差し掛かっています。EVは開発コストが莫大であるにもかかわらず、現時点での採算性はガソリン車やHVに比べて厳しいのが実情です。ホンダは、不確実性の高いEV市場に過度な投資をするリスクを避け、確実に収益を上げられる領域に資源を集中する判断を下したと考えられます。
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HVの「強い需要」と収益源としての役割: EVの成長が一時的に鈍化する一方で、ハイブリッド車(HV)への需要は世界的に高まっています。特に米国などでは、燃費の良さとEVのような充電の手間がない手軽さが評価され、堅調な販売を維持しています。ホンダは、この強いHV需要を取り込むことで、2030年のグローバル販売目標220万台という具体的な数字を掲げ、短期的な収益基盤を強化する狙いがあります。HVで得た収益を、将来のEV技術開発や投資に充てるという、持続可能な戦略を描いていると言えるでしょう。
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「選択と集中」による経営資源の最適化: EV投資を3兆円削減した内訳を見ると、ソフトウェア領域には2兆円を維持しつつ、バッテリーや生産設備などのハードウェア分野で減額しています。これは、ホンダがソフトウェアをEV時代の競争力の源泉と捉え、その分野への投資は惜しまない一方で、バッテリーや生産設備といった巨額の投資が必要な領域については、効率化や最適化を図る意図が読み取れます。先に発表された大型SUVの開発中止も、この経営資源の再配分の一環であり、より事業構造の再構築を進める姿勢がうかがえます。
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地政学リスクへの対応(特に米国市場): ホンダは、北米のオハイオ州にある3工場をEVハブと位置づけ、10億ドル(約1470億円)を投資すると発表しました。これは、米国政府がEV生産の国内回帰を促す政策を進めていることへの対応であり、将来的なトランプ政権による政策リスク(輸入関税など)を回避し、米国市場での確固たる生産基盤を築く狙いがあると考えられます。現地生産体制を強化することで、サプライチェーンの安定化と生産最適化を図り、収益性の回復を目指します。
ホンダの「堅実な電動化ロードマップ」
今回の発表は、ホンダの電動化戦略がより現実的で、かつ柔軟なものへとシフトしたことを明確に示しています。
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マルチパスウェイ戦略の強化: EV一辺倒ではなく、HV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、そして将来的なEVへと、市場の需要や技術の成熟度に合わせて多様な電動化選択肢を提供する「マルチパスウェイ」戦略を、より具体的に推進していく姿勢が見て取れます。
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「稼ぐ力」の強化: HVの販売目標を大幅に引き上げたことは、現在の収益の柱としてHVを重視し、「稼ぐ力」を強化することで、不確実性の高いEV市場への対応力を高める狙いがあります。
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中長期的な視点でのEVシフト: EVへの投資削減は、EVシフトを諦めるものではありません。むしろ、目先のコストや市場の動向を冷静に見極め、より確実にEVが普及する未来に向けて、効率的かつ持続可能な形で準備を進める中長期的な視点での戦略と言えるでしょう。
まとめ
ホンダが発表したEV投資の削減とHV販売目標の大幅な引き上げは、自動車業界全体が直面しているEVシフトの「現実」を改めて浮き彫りにしました。不確実性の高いEV市場において、安易な先行投資ではなく、収益性を重視し、市場の需要に合わせた柔軟な戦略へと舵を切ったホンダの「現実主義」が色濃く反映されています。
今後、ホンダがこの新たな戦略のもと、どのように電動化を推進し、持続的な成長を実現していくのか、そして他の自動車メーカーがこの動きにどう追随していくのか、引き続きその動向に注目していきましょう。