CMMI(Capability Maturity Model Integration)の中でも、特にシステムやソフトウェア開発に特化したモデルとしてCMMI for Development(CMMI-DEV)をご存知の方は多いでしょう。
しかし、このCMMI-DEVのモデルには、過去に「CMMI for Development + IPPD」という拡張版が存在しました。この「IPPD」こそが、従来の開発モデルを大きく進化させる鍵を握っていました。
今回は、このIPPD(Integrated Product and Process Development:統合製品・プロセス開発)が具体的に何を意味し、組織にどのようなメリットをもたらすのかを解説していきます!
IPPDとは?:開発を「孤立」から「統合」へ
IPPD(Integrated Product and Process Development)は、製品の開発プロセスを「製品開発」と「プロセス開発」という二つの側面から統合的に捉え、並行かつ協調的に進めるための組織戦略とマネジメント哲学です。
一言で言えば、「部門間の壁を取り払い、多様なステークホルダーが早期から連携して、製品とプロセスを同時に最適化していくアプローチ」です。
💡 従来の開発アプローチ(逐次型)との違い
従来の逐次的な開発(例:ウォーターフォール)では、通常、以下の問題が発生しがちでした。
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部門間の情報の分断: 要件部門、設計部門、製造部門などが縦割りになり、情報共有が遅れる。
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手戻りの発生: 後工程になってから、前工程の設計上の問題や製造上の課題が発覚し、大規模な手戻りが発生する。
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プロセス設計の遅れ: プロセス(作業手順)の検討が後回しになり、製品開発が完了してから非効率なプロセスが残ってしまう。
IPPDは、この問題を解決するために、以下の二つの要素を統合します。
1. 統合製品開発 (IPD)
多様な専門分野のチーム(IPT: Integrated Product Teams)が、開発の初期段階から継続的に連携し、共同で意思決定を行います。設計、製造、調達、運用・保守などの専門家が早期に関わることで、設計段階で製造性、保守性、運用性といったライフサイクル全体の視点が取り入れられ、手戻りが大幅に削減されます。
2. 統合プロセス開発 (IPPD)
製品と並行して、その製品を開発するための「プロセス」自体も開発(改善)していきます。つまり、「どう作るか」というプロセスを、「何を作るか」という製品設計と同時に最適化していくのです。これにより、製品の要求事項に最も適した効率的なプロセスを確立できます。
CMMI+IPPD:プロセス能力の「横展開」
CMMI for Development(CMMI-DEV)にIPPDのプラクティスが加わることで、CMMIが目指す「プロセスの標準化と改善」が組織横断的なレベルで強化されます。
IPPDの具体的なプラクティス領域には、以下のものが含まれていました(CMMI Ver1.3ベース)。
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Organizational Environment for Integration (OEI):
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統合的な開発を支援するための組織環境の確立。例えば、情報共有の仕組み、共同作業のインフラ、チームベースのパフォーマンス評価などが含まれます。
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Integrated Teaming (IT):
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統合製品チーム(IPT)の編成、管理、トレーニング。チームの目的、役割、責任を明確にし、効果的な協調を促進します。
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CMMI-DEVの一般的なプロセス領域(要件管理、プロジェクト計画など)が「縦の深さ」(プロセスの定義・管理)を追求するのに対し、IPPDは「横の広がり」(部門間の統合・連携)を補完する役割を果たしました。
IPPDの主なメリット
IPPDアプローチを導入することで、組織は以下の大きなメリットを享受できます。
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開発リードタイムの短縮: 部門間の連携強化により情報伝達の遅れや手戻りが減り、全体的な開発期間が短縮されます。
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コスト削減: 後工程での設計変更や不具合対応のコストが大幅に削減されます。
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製品品質の向上: 製造、保守、運用といったライフサイクル全体を見据えた設計が初期段階で行われるため、市場投入後の問題が減り、製品の総合的な品質が向上します。
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組織文化の変革: 孤立した縦割り組織から、目標を共有する協調的なチームベースの文化へと変革し、従業員のエンゲージメントが高まります。
結論:現代の開発手法への影響
CMMI-DEVの「+IPPD」モデルは、Ver2.0への移行に伴い、特定の拡張モデルとしては廃止されましたが、その考え方は現代の開発手法に深く浸透しています。
特に、アジャイル開発やDevOpsといった手法は、まさにIPPDが目指した「部門や専門分野を超えた継続的な連携と統合」を実践しています。
CMMIの初期のバージョンにおけるIPPDは、組織が部門の壁を超え、製品とプロセスを同時に最適化するという、現代のデジタルプロダクト開発において不可欠な考え方を提唱した、非常に重要なフレームワークだったと言えるでしょう。