ソフトバンクグループが、英国の自動運転開発スタートアップであるWayve(ウェイブ)に対し、約1,600億円もの巨額出資(シリーズCラウンド)を主導したというニュースは、モビリティ業界に大きな衝撃を与えました。
なぜソフトバンクはこれほどまでにWayveに賭けるのか?そして、Wayveの技術は従来の自動運転と何が違うのでしょうか?その答えは、AIの進化がもたらす「自動運転2.0」への転換にあります。
1. なぜWayveなのか?「運転のためのGPT」という革新
従来の自動運転技術(自動運転1.0)は、膨大な量のセンサーや高精度地図(HDマップ)に依存し、あらかじめ決められたルールに基づいた複雑なプログラミングが中核でした。しかし、Wayveが開発するのは、この常識を覆す全く新しいアプローチです。
🚗 エンボディドAI(Embodied AI)と「ビジョンファースト」
Wayveの最大の特徴は、「エンボディドAI」というアプローチに基づいたエンドツーエンドのディープラーニングモデルを採用している点です。
-
カメラ映像のみで学習: 人間が視覚情報(カメラ)だけで運転を学ぶように、WayveのAIもカメラ映像のみから運転を学習します。これにより、従来のシステムが必須としていた高精度地図(HDマップ)が不要になります。
-
汎用性の高さ: 地図データがない初めての都市や、予期せぬ交通状況にも、人間のように過去の学習を応用して柔軟に対応できます。これにより、世界中のあらゆる車種や都市への迅速な展開が可能になります。
🧠 生成AIの活用:「運転の常識」を学習
Wayveは、大規模言語モデル(LLM)のような生成AIを自動運転に組み込み、「運転のためのGPT」と呼べるような基礎モデルの構築を目指しています。
-
AIが交通ルールや人間の行動パターンといった「運転の常識」をテキストや動画から学習します。
-
これにより、単純なセンサーデータの処理だけでなく、なぜその判断を下したのかを説明できるようになり、安全性の透明性向上にもつながります。
ソフトバンクの孫正義会長が「AIはモビリティに革命をもたらす」「交通事故を99%なくすことができるだろう」と語ったように、この汎用的なAI技術こそが、ソフトバンクが巨額を投じた最大の理由です。
2. ソフトバンクの投資戦略:未来のインフラへの布石
ソフトバンクグループの投資は、単なる資金提供にとどまりません。彼らがWayveに巨額を投じるのは、この技術が未来のモビリティインフラの鍵になると見ているからです。
-
「ASI」(人工超知能)時代への投資: 孫会長は、人類の知能を超える「ASI」の実現を目標に掲げています。WayveのエンボディドAIは、物理世界で自律的に行動するAIの最も重要な応用分野の一つであり、ソフトバンクのビジョンと完全に一致しています。
-
エコシステムへの組み込み: ソフトバンクは、Wayveの取締役会に参加し、事業を積極的にバックアップします。さらに、出資にはNVIDIAやMicrosoftといった巨大IT企業も加わっており、Wayveを中心とした強力なAIモビリティエコシステムが形成されつつあります。
-
既存パートナーシップの強化: Wayveは、すでに日産自動車と提携し、その技術を日産の次世代運転支援技術「ProPILOT」に統合する計画を進めています。ソフトバンクの資金力とネットワークが加わることで、この実用化の動きはさらに加速するでしょう。
まとめ
ソフトバンクによるWayveへの約1,600億円の出資は、単に自動運転スタートアップに対する過去最大級の投資というだけでなく、「AIによる自動運転の再定義」へのコミットメントを意味します。
高精度地図に頼らず、AIが人間のように学習・推論して運転するWayveの技術は、自動運転の普及を一気に加速させ、私たちの生活を劇的に変える可能性を秘めています。この巨額投資は、ソフトバンクが未来のモビリティの主導権を握るための、極めて重要な一手と言えるでしょう。