近年、自動車業界や組み込みシステム開発の分野で「モデルベース開発(MBD: Model-Based Development)」が注目されています。MBDは、従来のコードベースの開発手法と異なり、システムの動作をモデルとして可視化しながら開発を進める手法です。
本記事では、MBDの基本概念から、利点と欠点を整理しながら、どのような場面でMBDを活用すべきかを考えていきます。
モデルベース開発(MBD)とは?
MBDとは、開発対象のシステムを数学モデルやシミュレーションを使って設計・検証しながら開発を進める手法です。
一般的には、MATLAB/Simulinkなどのツールを活用し、システムの動作をモデル化してから自動コード生成を行うことで、開発プロセスを効率化します。
従来の「コードベース開発」との違いを簡単に比較すると、次のようになります。
| 項目 | コードベース開発 | モデルベース開発(MBD) |
|---|---|---|
| 開発手法 | 手書きコードを直接実装 | モデルを作成し、自動コード生成 |
| 検証方法 | 実機テスト中心 | シミュレーションで早期検証 |
| 可視化 | ソースコードのみ | 視覚的なブロック図 |
| 変更対応 | コード修正が必要 | モデルの調整で対応可能 |
| 再利用性 | 低い | 高い(モデルの流用が容易) |
MBDの大きな特徴は、「シミュレーションを用いた開発プロセス」と「自動コード生成」の2点です。
これにより、開発期間の短縮や品質向上が期待できます。
モデルベース開発(MBD)の利点
1. 開発の効率化(設計と実装の統合)
MBDでは、設計モデルをそのままプログラムコードに変換するため、設計と実装のギャップを縮めることができます。
これにより、手書きコードのミスを削減し、開発期間を短縮できます。
2. 早期のシミュレーションと検証が可能
MBDでは、開発初期からシミュレーションを活用してシステムの動作を確認できます。
これにより、後工程でのバグや仕様変更によるコスト増を抑えることができます。
3. 再利用性の向上
作成したモデルは、他のプロジェクトでも再利用しやすいため、開発の効率化や品質の向上に貢献します。
特に、自動車業界のようなプラットフォーム開発に適しています。
4. コード品質の向上(自動コード生成)
手作業でのコーディングを減らし、自動コード生成を活用することで、一貫性のある品質の高いコードを生成できます。
特に、安全性が求められる自動車・航空・医療機器の分野で有効です。
5. ソフトウェアとハードウェアの並行開発が可能
MBDでは、シミュレーション環境で動作確認を行えるため、ハードウェア完成前にソフトウェア開発を進めることが可能です。
これにより、開発スピードを大幅に向上させることができます。
モデルベース開発(MBD)の欠点
1. 導入コストが高い
MBDを導入するには、高価なツール(MATLAB/Simulinkなど)や、モデリングスキルを持ったエンジニアの育成が必要です。
また、既存のコードベースからの移行が難しいという課題もあります。
2. ツールに依存しやすい
MBDでは、MATLAB/SimulinkやSCADEといった特定のツールに依存するため、ツールベンダーのライセンスや仕様変更の影響を受けやすいです。
また、ツールごとに互換性の問題が発生することもあります。
3. モデルの管理が難しい
MBDでは、システム全体が大規模なモデルとして構築されるため、バージョン管理や変更管理が複雑になります。
特に、大人数のチームで開発する場合、モデルの一貫性を維持する仕組みが必要になります。
4. リアルタイム処理に不向きな場合がある
MBDで自動生成されるコードは、人が手書きするコードに比べて処理効率が悪くなる場合があるため、
リアルタイム性が求められるシステム(例:制御系ソフトウェア)では最適化が必要になることがあります。
5. 従来の開発手法とのギャップ
MBDを導入する企業では、従来の手書きコードによる開発文化が根強く残っていることが多く、
MBDの開発プロセスや考え方に慣れるまでに時間がかかることがあります。
モデルベース開発(MBD)はどのような場面に適しているか?
MBDは、以下のようなケースで特に有効です。
✅ 自動車の制御システム(ADAS、パワートレイン、バッテリー管理など)
✅ 航空・宇宙産業のミッション制御システム
✅ 医療機器(心拍モニター、人工呼吸器など)
✅ ロボット制御・産業用オートメーション
✅ IoTデバイスやエッジAIの組み込み開発
特に、シミュレーションによる設計検証が重要なシステムや、安全基準(ISO 26262など)の適合が求められる分野では、MBDの導入が有効です。
まとめ
モデルベース開発(MBD)は、開発の効率化、品質向上、早期検証といった多くのメリットを持つ開発手法です。
一方で、導入コストやツール依存、モデル管理の難しさといった課題もあるため、プロジェクトの特性に応じて適用を検討することが重要です。
近年、MBDの活用範囲は拡大しており、特に自動運転・IoT・医療機器などの分野では欠かせない技術となりつつあります。
今後の開発プロセスをより効率的にするためにも、MBDの活用をぜひ検討してみてください。