デジタル化が進む現代、企業ネットワークへのアクセスをどのように安全に保つかが重要な課題となっています。従来のVPN(Virtual Private Network)が中心だったセキュリティ対策ですが、最近ではZTNA(Zero Trust Network Access)が注目されています。本記事では、ZTNAとは何か、従来のVPNとどのように異なるのかについて解説します。
1. ZTNAとは?
ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)は、「ゼロトラスト」という考え方に基づく新しいセキュリティモデルです。ゼロトラストは「信頼しない」という意味で、どのユーザーやデバイスに対しても常に検証と認証を行い、アクセス権を付与する方式です。ZTNAでは、ユーザーが認証された後でも常にアクセスが監視され、必要なリソースにのみアクセスできるように制限されます。
ZTNAが普及する背景には、リモートワークの増加や、従来の境界型セキュリティモデルの限界があります。従来のモデルは、企業ネットワークの内部を「信頼できる領域」、外部を「信頼できない領域」として設計していました。しかし、クラウドやモバイルデバイスの普及により、この境界が曖昧になり、ZTNAが新たなセキュリティアプローチとして注目されています。
2. VPNとは?
VPNは、インターネット上で暗号化された「トンネル」を作り、データを保護しながら通信を行う技術です。リモートアクセスや拠点間通信のセキュリティ対策として広く利用されています。VPNを使用することで、リモートから会社のネットワークにアクセスし、データやアプリケーションに安全に接続できるようになります。
しかし、VPNには課題もあります。VPNを利用する場合、デバイスがネットワークにアクセスする際に「全体のネットワーク」への接続が許可されるため、個別のアプリやデータの保護が不十分になることがあります。また、VPNサーバーの負荷が増えると速度が低下する可能性があり、管理も複雑化します。
3. ZTNAとVPNの比較
ZTNAとVPNの主な違いを表にまとめてみました。
項目 | ZTNA | VPN |
---|---|---|
セキュリティモデル | ゼロトラスト | 境界型セキュリティ |
アクセス範囲 | 必要なリソースへの限定アクセス | 全体のネットワークへのアクセス |
監視と制御 | 常時監視・アクセス制御 | アクセス後の制御は限定的 |
パフォーマンス | 柔軟に拡張可能で速度低下が少ない | サーバー負荷により速度低下の可能性 |
管理の容易さ | クラウド環境での管理が容易 | サーバーやネットワーク管理が必要 |
利用シナリオ | クラウドアプリケーションやリモートワーク環境 | 社内ネットワークへのリモートアクセス |
(1) アクセス範囲の違い
VPNは接続先の全体ネットワークにアクセスするのに対し、ZTNAはユーザーが必要とする特定のリソースにのみアクセスを許可します。例えば、特定のクラウドアプリケーションへのアクセスを許可するだけで、他のリソースにはアクセスできないため、セキュリティが強化されます。
(2) 常時監視とゼロトラストモデル
ZTNAはゼロトラストモデルに基づいているため、アクセス中でも定期的に認証が行われます。一方、VPNは一度認証されるとアクセスが許可され続けるため、内部での不正アクセスが行われる可能性があります。
(3) パフォーマンスとスケーラビリティ
ZTNAはクラウドでの利用に最適化されており、ユーザーが増加しても柔軟に対応できる設計です。VPNはサーバー側の負荷が増えると速度が低下する場合があるため、リモートワークが増えるとパフォーマンスの問題が発生しやすくなります。
(4) 管理の複雑さ
ZTNAはクラウドでの管理が簡単で、物理的なサーバー管理が不要である点が魅力です。一方、VPNはネットワーク設定やサーバーの設定が必要で、管理が複雑になることがあります。
4. ZTNAとVPNの活用シナリオ
VPNが適している場合
- レガシーシステムを利用する企業:VPNは既存の社内システムやレガシーシステムと互換性が高く、長年使用されてきた実績があります。
- 拠点間通信:複数の拠点間での安全な通信が必要な場合、VPNは安定した接続を提供します。
ZTNAが適している場合
- クラウドベースの業務環境:クラウドアプリケーションを使用する場合、ZTNAは必要なリソースのみアクセスできるためセキュリティリスクが低くなります。
- リモートワーク:ゼロトラストの考え方で、どこからでも安全に接続できるため、リモートワーク環境での利用に適しています。
- BYOD(Bring Your Own Device)環境:ZTNAはデバイスの種類を問わず、アクセス管理を徹底できるため、個人端末での業務が増える環境でも柔軟に対応します。
5. ZTNAの導入時のポイント
ZTNA導入に際しては、以下の点に注意する必要があります。
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ユーザー認証とデバイス管理:ゼロトラストモデルではユーザーとデバイスの認証が重要です。多要素認証(MFA)やデバイス管理を徹底しましょう。
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リソースの特定とアクセス制限:ユーザーごとに必要なリソースのみアクセスを許可し、不要なリソースへのアクセスを制限することが重要です。
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監視とログ管理:ZTNAではアクセス中も監視が行われます。異常なアクセスを検知するための監視体制を整え、ログを適切に管理しましょう。
ZTNAは従来のVPNに比べ、柔軟で安全性の高いアクセス制御を提供し、特にクラウドベースのリモートワーク環境に適しています。ゼロトラストの考え方に基づくZTNAを導入することで、企業ネットワークのセキュリティをより強化し、現代の多様な働き方に対応した安全な環境を構築することが可能です。従来のVPNとZTNAの特性を理解し、自社の業務環境に最適なセキュリティ対策を検討してみましょう。